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“美しい未来のために「生きる」をデザインする”。 幾田桃子さん特別講演会【前編】

2023年10月4日(水)、龍谷大学 深草キャンパス 顕真館にて、デザイナー・社会活動家の幾田桃子さんによる特別講演会が開催されました。テーマは“美しい未来のために「生きる」をデザインする”。幾田さんは、ファッションやアートを通じて、命の大切さと性暴力をなくすための活動を展開し、「一人ひとりが大切な存在である」というメッセージを世界に発信し続けています。

【前編】では幾田桃子さんの講演と質疑応答、【後編】では本学・入澤崇 学長との対談の模様をレポートします。

子どもの頃から社会の不条理を変えたいと考え
アメリカの高校、大学で勉強と活動を始めた

私は小学生の頃、登下校の坂道では社会の不条理について考える時間と決めていました。戦争や人種差別はどうしておこるのだろう、通勤電車にいる大人たちはなぜ心がないような目をしている人が多いのだろう、子どもも大人もどうして仲間はずれをするのだろう、男の子だから、女の子だからと言われるのはどうしてだろう……。どのような行動をしたら、社会の不条理を変えていけるのかを考えていました。

中学卒業後は、アメリカ・フロリダ州の高校に入学。カフェテリアの左と右で自然と白人ゾーンと黒人ゾーンが分かれていたり、白人生徒がアジア人だからと私の両目を引っ張ったり、黒人とお付き合いしようとすると白人が反対してきたり、女性の先生が女性とお付き合いをしていると生徒からバカにされたりと、さまざまな社会問題に直面した留学生活でした。私はストレスのあまり生理が半年間ストップしてしまいました。
そこで、おかしいな、変だなと思う社会問題を解決する活動に参加するようになりました。非暴力による差別抵抗活動で有名なマーティン・ルーサー・キング・ジュニアについてスピーチする大会では、「人種差別は決して行ってはいけない。人種差別はアメリカだけでなく日本にも存在する。世界中にある人種差別をみんなでなくしていく必要がある」と訴え、3位入賞しました。

高校卒業後は、南カリフォルニア大学へ進学。国際関係学では、社会問題を24時間で解決せよといったテーマに対してチームのみんなで話すフリー形式が中心でした。女性学では、「脇毛を剃るか剃らないか」といったフェミニスト同士の対立に、それぞれが大切にしているポイントを聞いて、意見を結びまとめていきました。

古着を使った子ども服と愛に溢れる行動が
ニューヨーカーの心を動かした

PHOTOGRAPH BY KATSUHIKO KIMURA

大学で、ファッション産業は洋服を作る過程で環境を汚染しているうえ、服を作り過ぎているという現状があり、環境汚染産業の上位だと知りました。私は2001年、古着や廃棄衣料を使った子ども服ブランドをスタートしました。子ども服として新たに蘇らせるなら、消耗品ではいけない。新品よりも美しい魅力を放ち、代々受け継がれる宝石のようなものであるべきだ、と私は考えました。フランスの宝飾ブランド、ヴァン クリーフ&アーペルが私たちのデザインとコンセプトに賛同してくださり、店舗でモデル撮影をしたこともあります。

高級百貨店・バーニーズ ニューヨークのロサンゼルス店でお買い物をしていたときのことです。私は透明のケースに子ども服を入れて持ち歩いていたのですが、マネージャーが、それに目を留めて「すごく可愛いね、ニューヨークの本店に見せにいってほしい」と声を掛けてきました。私は「すぐに行きます!」と返事をしたのですが、その数日後に、ニューヨークで同時多発テロ事件が発生しました。担当者から落ち込んだ声で「今はビジネスを進める時期ではない、今季は新規ブランドを扱わないことに決めたんだ」と、連絡がありました。私は「わかりました、とにかくみなさんを励ましに行きます」と伝え、ニューヨークへ向かいました。

私は「I  ♡ NY」とプリントされたTシャツを着てマンハッタンを歩き、働いている人たちやホームレスたちとハグをしました。翌日、そのTシャツを着てバーニーズ ニューヨークの本店に行き、「ニューヨークの人たちを励ましたいという一心でやってきました」と伝えました。すると、「とても元気をもらえたよ、異例だがあなたのブランドを取り扱わせてくれないか」と言われ、その場で契約が決まりました。ファッションは、自分の想いを可視化する素晴らしいツールなんだと実感しました。

モノも人間も消費しないブランド運営で
美しい社会の実現を目指す


2003年、「セールをしない」「在庫消化率99%、ゴミを増やさない」「職人を守る」「美を育む」「知的交流の場を創る」という5つの理念を掲げ、東京の南青山にセレクトショップをオープンしました。売れなかった商品のデザインを改善して販売し直したり、技術の高い職人に適正な報酬をお支払いしたり、試着により美を体感してもらうために値札をつけなかったりと、さまざまな取り組みをおこないました。また、三菱電機の携帯電話を企画・設計・デザイン。生理周期を管理するアプリと、夜道で誰かと通話しているかのように演出する性犯罪防止機能を世界で初めて搭載した携帯電話として、NTTドコモから販売されました。

品川区にある女子中学・高校の制服は、女性が自立して自分で人生を選択し、幸せに生きていくことをテーマにデザイン。生活指導の先生は、以前はどうしたら生徒たちが制服を着崩さないか、スカートを短くしないかといつも頭を悩ませていましたが、新しい制服になると、生徒たちが「そのままが一番可愛いから」と、きちんと着るようになりました。「まるで、イソップ物語『北風と太陽』のようだ」と、先生はおっしゃっていました。AKB48の渡辺麻友さんが「東京で一番かわいい制服」にこの制服を選び、ミュージックビデオで着用しました。

命の大切さを伝え、性被害をなくす目的で性教育絵本「ドクター ピーチ セックス エデュケーション」を出版しました。監修は、東京産婦人科医会理事で日本思春期学会理事の対馬ルリ子先生。現在、病院、学校、児童養護施設、カフェなど様々な場所で活用されています。

ファッションアイテムや芸術を通して
社会へのメッセージを発信

PHOTOGRAPH BY OSAMU YOKONAMI

私たち夫婦は、20年以上、公私ともにパートナーです。長い間妊活をしましたが、子どもには恵まれませんでした。子どもが大好きな私たちにできることは、世界中の子どもを自分たちの子どものように考え、正しいことを楽しく学べる環境を作っていくことだと考えています。2020年、夫の千々松由貴とともに「MOMOKO CHIJIMATSU」を立ち上げました。「MOMOKO CHIJIMATSU」は、美を追求し、芸術を通じて社会問題を発信しています。

女優の二階堂ふみさんは、「MOMOKO CHIJIMATSU」の人種差別反対リングを着用して、2020年第71回NHK紅白歌合戦の司会をしました。女優の橋本愛さんは、建築廃材や端材を使用して作成したリボンドレスを着用しました。リボンドレスは、「私達は1人1人大切なギフトのような存在」というメッセージを作品に込めています。

コロナ禍では、「マスクを着用しよう世界キャンペーン」を日本から世界へ行いました。欧米では、マスクは病気の人や医療従事者がつけるもの、かつダサいという意識が根強く、マスクを着用することに対しての抵抗がありました。そこでファッションの力を通じて、公の場でマスクを着ける習慣を世界に広めていきました。マスクは販売していません。誰もが古着のTシャツから簡単に作れるように、作り方をインスタグラムで発信しました。このキャンペーンはニューヨーク・タイムズが発行するT Magazineや、世界18カ国1地域で発行されている、世界で最も影響力のあるファッション誌「VOGUE」など、さまざまなメディアに掲載されました。

人は誰でも、社会を変える勇気と行動力をもっている

PHOTOGRAPH BY MOTE SINABEL AOKI

 

2021年、企業や世界中のみんなとリボンのように繋がり、さまざまな社会問題を一緒に解決していく「りぼんプロジェクト」をスタートしました。2022年、トヨタ自動車と協働し、命の大切さと性教育を学ぶトレーラーを設計・デザインしました。トレーラーの中で、児童養護施設の子どもたちや公立小学校の生徒たちに、命の大切さと性被害をなくすための授業を、性教育絵本「ドクター ピーチ セックス エデュケーション」を活用して行いました。地球の誕生をイメージしてデザインしたトレーラーは、中に入ると絵本の中にいるような体験ができ、子どもも大人もわくわくしながら楽しく学べる空間になっています。

戦争、環境破壊、差別など、人間は長い間、世界中でたくさんの殺し合いをし、地球の環境を破壊し、さまざまな差別をしてきました。私達人間は地球にとって優しく美しい存在でしょうか? 答えは残念ながら「いいえ」です。

人間は、この地球上で脳が一番発達している生き物です。人間は物ごとの本質を理解し、共感することができます。武器を作り、たくさんの人々の命を奪うことも、道具を作り、人々を助け、幸せにすることもできます。今ある当たり前の社会を当たり前だと思わないで地球にとって幸せが永続的に循環する方法を考え、行動していくことが重要です。美しい未来をデザインしていくのは私たち人間の生きる使命です。

私たちの命は、お父さん、お母さんだけではなく、おばあちゃん、おじいちゃん、ひいおじいちゃん、ひいおばあちゃん、その前からもずっと繋がっています。あなたは奇跡の存在である。あなたには、勇気を出して行動できる力があるということを、どうぞ忘れないでください。

 

会場での質疑応答タイム

——今の日本では、小学生から高校生の間の年代の不登校者数や自殺者数が増えています。私も不登校を経験しました。なぜ、それらが増加していると思われますか?

 

幾田さん 学校でのいじめや、親と関係が良くないなどの理由で心のエネルギーが減り、最終的に無気力になってしまい、結果的に自殺や不登校になってしまうのかなと思います。学校でも社会でも忙しくなると、心がなくなってきたり、虚しい気持ちになったりすることがあります。心が取り戻せるような場所があるといいなと思います。将来、どんな職業に就いたとしても、本当に人が安らげるような環境や場所を皆さんのために作ってあげてくださいね。

——大学では男女平等はできてきているかなと思いますが、日本の社会構造では、男女平等が実現できていないように感じます。

 

幾田さん 例えば私たちが結婚して、朝ご飯を私とあなたが交互に作るとか、私が料理をしてあなたが掃除をするといった分担に対して違和感はないですか。ないのなら、その時点で素晴らしいのですよ。SDGsは、堅苦しく考えなくていいのです。社会のなかでおかしいな、変だなと、こういうふうにしたらみんなが幸せに生きていけるんじゃないかと思うことを自分で意識し、少しでも行動に起こしていくといいと思いますよ。