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ゲンゴロウがいきる米で町を作る

日本の過疎地域は、国土の6割以上、市町村数の半数近くを占めます。

地方の過疎化によって、農業用水や耕作地を管理する農業の担い手が減り、日本の食料自給率は低下しています。また、荒廃した耕作地は、野生動物の活動範囲となり、住民は獣害による被害対策に苦戦しています。

その中の一つ、京都府京丹後市大宮町三重・森本地区は恵みの郷として知られ、夏の夜は水辺で舞うホタルが、秋は風で一斉に揺れる黄金の稲穂が人々を迎えます。住民は、この恵みの郷を守っていくために、ご先祖さまから受け継いだ大切な田畑を保全していきたいと強く思っていました。

この声に応えたのが、龍谷大学政策学部。

三重・森本地区の住民と協働して、地域の自然の豊かさを守りながら、住み続けられるまちづくりの実現に2015年から取り組んでいます。

2種類の絶滅危惧種のゲンゴロウが見つかった水田に目をつけ、「ゲンゴロウ郷の米」作りをスタート。これまでに4回の作付け、収穫に成功し、商品化と販売を行ってきました。

今後は、農法・農薬の生物多様性的観点や、2015年から龍谷大学が取り組んでいる南京調査を含めた政策観点、6次産業化の経済的観点での龍谷大学学生からの提案を通じて、「ゲンゴロウ郷の米」の農法を確立させ、ゲンゴロウが見つかった一つの水田だけでなく、地域全体で栽培を行い、特別生産米として販路の拡大を目指し動いています。

三重・森本地域はゲンゴロウの郷と発見

三重・森本地域は、田畑の後継者がいないため休耕田や遊休地が増え、将来の地域の在り方について住民は大きな不安を抱えていました。

そんな中、2015年4月、龍谷大学政策部の学生という新しい風が地区に吹き込まれ、農村再生への取り組みが始まりました。

まず学生たちが取り組んだのは、三重・森本地区に住む生き物と人々の暮らしとの関係について調べることでした。2016年11月までの1年半の期間、水田や水路、ため池にどのような生き物が生息しているか調査を行いました。

出典 https://kyotangomorimotoaguri.com/kome/gengoro/

調査の結果、綺麗な水中でしか生息できないゲンゴロウを発見。

学生だけでなく、地区住民にとっても驚きの出来事でした。さらに調査を進めると、この種は環境省レッドカテゴリーリストに絶滅危惧種として指定されている「マルガタゲンゴロウ」と「クロゲンゴロウ」の2種と判明。学生たちは、この発見に目をつけ、ゲンゴロウと共生する新しいまちづくりのための計画を始めました。

「絶滅危惧種のゲンゴロウを筆頭に、多くの生き物が棲息できるような環境で、米を育てていきたい。そして、この米を地域ブランドとして確立させたい。」

こうして、龍谷大学政策学部と三重・森本地区の農村再生プロジェクトは本格スタートしました。

ゲンゴロウが生きる水田で米作りスタート

2017年春、地域住民と学生は、絶滅危惧種のゲンゴロウが発見された0.5 haの水田で田植えを行いました。

「ゲンゴロウがいきる米」の最大の価値は、希少生物ゲンゴロウと共生する米作りです。そのため、生物に悪影響のある農薬や肥料の使用をできるだけ減らし、除草や水の管理に注意しながら米作りに取り組みました。地元資源であるカニ殻を活用して土壌に有機物を供給し、刈った稲をすき込んで藁を腐らせバクテリアを増やして土作りを行いました。しかし、それでもゲンゴロウと共生しながら米作りをすることは簡単なことではありませんでした。

従来の農法では、水田から水を抜く中干しの作業時に多くの生き物が干上がり消滅してしまいます。

今回は、多くの生き物が生き延びることができるように「深み」を作って中干しの作業を実施しました。また、水田に引く水を温めるための溝にも工夫が必要です。ゲンゴロウが棲みやすく、米作りにも支障がない「ひよせ」とよばれる溝作りに奮闘。地元の農家さんと何度も話し合いながら、ゲンゴロウにとっても、人にとっても最適な米作りを実現しました。

こうして2017年秋、ゲンゴロウが棲む0.5 haの水田から、2000 kgの米を収穫。

これを「ゲンゴロウ郷の米」と名付け、地元の道の駅丹後王国「食のみやこ」での販売を皮切りに、ネットでの販売など、販路拡大を進めています。

この取り組みの積み重ねにより、2018年、「ゲンゴロウ郷の米」は農地・水・環境保全の観点での米作りを評価され、「京都府知事賞」を受賞。さらに2019年には、未来につながる持続可能な農業と評価され、「近畿地域環境保全型農業推進連絡会議会長賞」を受賞しました。

2018年夏撮影

コロナに負けるな 学生に贈られたゲンゴロウ米

しかし2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、三重・森本地区の住民と龍谷大学学生の協働活動もストップ。そればかりか、多くの学生が、外出も制限されアルバイトも十分に出来ず、食べるものにも困るような状況にありました。

住民は、早く再び一緒に地域活動が出来ることを願って米を袋に入れ、学生の食生活を支援するためゲンゴロウ郷の米をメッセージと共に贈りました。

「大変な状況だとは思いますが、私たちが作ったお米を食べて踏ん張って下さい。笑顔で会いましょう。」

いまも、住民と龍谷大学生は、三重・森本地域の水田に生きる生物の多様性を重要視し、ゲンゴロウの生きる水田をつくるためにどのような農法や農薬を選ぶべきか検討し続けています。また、地区の住民が動く主体性が何から生まれるか考察しながら、個人主体の農業では経営面で難しくなる時代に、行政と連携した組織を作り6次産業化を推し進める方向に進んでいます。

三重・森本地区の里山がもつ魅力を発掘し、ゲンゴロウと生きる農法を確立させて地域全体で「ゲンゴロウ郷の米」の栽培を行い、ゲンゴロウの魅力を活かして地域づくりを行う取り組み。これからも目が離せません。