社会課題の解決やESG経営をめざす企業に対し、経営方針や事業内容、社会的インパクトなどを基準に、評価・認証を行うソーシャル企業認証(S認証)制度が2021年からスタート。京都信用金庫、京都北都信用金庫、湖東信用金庫、但馬信用金庫が参画し、龍谷大学ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンターが各企業・団体の社会性及び社会的インパクトについて、公平公正に審査を行う第3者機関の運営を行なっています。2023年4月までの1年間、評価を担う委員会の学生委員として活動した、政策学部4年生の神戸晟太さんと、政策学部3年生の谷口智哉さんに委員としての活動についてお聞きしました。
社会課題を解決している
企業の認証に学生が参加
編集部:2021年4月から始まったソーシャル企業認証制度(以下、S認証)。関西を中心とした中小企業に対し、経営方針や事業内容、社会的インパクトなどを基準に評価・認証が行われます。世のため人のために、社会課題に取り組んでいる企業 を審査するのが、ソーシャル企業認証第三者委員会です。龍谷大学ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンターの下に設置された委員会では、委員として大学の各分野の専門家、経営、会計、行政の有識者、そして龍谷大学の学生も名を連ねます。2022年度の学生委員を務めた神戸晟太さん(政策学部、2020年入学)、と谷口智哉さん(政策学部、2021年入学)のお二人にお話を聞きました。
「1・2年生の間はコロナ禍の影響で課外授業に参加できる機会が少なく、3年生から何か新しいことにチャレンジしたいとポータルサイトを見ていて、学生委員の募集を見つけました。龍谷大学には様々な課外活動がありますが、この募集は学生の意見を企業の方に伝えることができる内容だったので、魅力を感じました」(神戸さん)
「昨今、メディアでSDGs、ESG(注:Environment(環境)・Social(社会)・Governance(企業統治))といった言葉を目にするようになりましたが、自分の中に懐疑的な視点が常にあったんです。そこに書かれているのは真実なのか、本当に環境のための活動なのか、本当の目的は企業の利益なんじゃないかと。S認証のポータルサイトに『ESG経営をめざす企業を応援する』というワードを見つけ、企業の真実の姿を知りたい、確かめたい、と思ったのが応募の理由です」(谷口さん)
編集部:第三者委員会は1~2カ月に1度オンラインで開催され、会議の1週間ほど前に、委員会経由で企業からの申請資料を受け取り、資料を読み込んだりホームページを調べる等企業の理念や活動に関する理解を深め、学生から見た自分なりの意見を伝えられるよう、綿密な準備をしていたそうです。
「1回の会議に際して受け取るのは10〜15企業の申請資料です。準備には、8時間ほどかけていましたね。申請資料に『環境に優しい商品を販売』と記載があれば、企業のHPで商品について調べたり、その業界の情報を集めてみたり。どこまで調べるか、どこまで時間を費やすかは自分次第ですが、自分が興味のある企業や学びたい分野について情報を集める機会が増え、貴重な経験だったと感じています」(神戸さん)
「委員会には3つの部会があります。まず学生を含む3名程度で構成されたそれぞれの部会でします。企業から申請された内容で気になったことや不明な点を洗い出し、それを全体で共有する。段階を経ながら、認証するかどうかを慎重に判断していきます」(谷口さん)
学生審査委員の役割は
小さな疑問も口にすること
編集部:それぞれの部会には学生の委員が一名ずつ参加しています。最初は戸惑う場面もあったそうですが、会議を重ねていく中で学生独自の役割が見えてきたそうです。
「最初はもちろん、すごく緊張しました。知識や経験も少ない自分が、発言していいのかなって。でも参加してみて、学生の役割があると気づいたんです。学生の疑問や視点は、世間一般の感覚と近いのかもしれない、だからこそ発言する必要があるのかもしれないと。質問や意見に関しては質よりまずは量、疑問に感じたことを躊躇せずに、できるだけたくさん発言することが、自分の役割だと感じました」(神戸さん)
編集部:それぞれの企業や団体は、何を社会課題として捉え、何を”世のため人のため”に実践しているか、どのようなインパクトを生み出しているかを、「環境」「働き方/雇用」「多様性」「貧困」などSDGsの達成目標と関連する10のカテゴリーと関連付け申請されます。1年間で、担当する部会の議論の俎上に上った企業数はおよそ150社。さまざまな社会課題の解決に挑む企業を知る中で、新たな気づきもあったそうです。
「二酸化炭素の排出量を減らすなど、「環境」をキーワードに選んでいるのは、割と大きな企業が多いと感じました。一方の中小企業では、子ども食堂や教育など子どもに関する案件が多く見られましたね。いろんな貢献の仕方、いろんな情熱を目の当たりにしていくうち、強く感じたことがあるんです。それは、企業の規模が大きくても、どれだけ小さくても、社会のためにできることは必ずある、ということでした。情熱を持って社会課題と向き合っている、でも世間にあまり知られていない、そういう企業の取り組みを応援し広める のもS認証がやるべきことです。事業規模の大小は関係なく、世のため人のためになっているか、という公正な目線を持ってサポートしていくことが大事なのだと感じました」(谷口さん)
「認証された企業は、自社の商品やサービスを広く知ってもらえること以外に、融資の手段が増えることもメリットに感じておられました。例えば、京都信用金庫様には「京信ソーシャル・グッド預金」というサービスがあり、預金の際に預金者自ら『この分野の課題解決に貢献している企業に融資してほしい』と指定できます。新たな融資先が得られることにも、多くの企業様は魅力を感じておられるのだなと思いました」(神戸さん)
S認証が就職活動における
企業選びの基準のひとつに
編集部:2021年の1件目から始まり、現在、登録認証企業・団体は846件(2023年5月時点)にのぼります。「世のため人のため」になる企業だと認証されることが、この先、就職活動における新たな企業選定の基準になっていくことにも期待が集まっています。
「大学時代は主体的に動くことが求められ、そのための時間がたくさんあります。その時間を使ってS認証の活動に参加したことは、有意義な経験でした。毎回、誤解のないよう自分の意見を伝えることの重要性を感じましたし、新しい企業を知ることはとても興味深くて。できる範囲で商品を見に行ったり、商品を買ってみたりすることも楽しかったです。部会までに、会話についていけるよう調べ尽くしたつもりでも、わからない内容が出てくることもありました。でもそれは、また後で調べ直せばいいだけのこと。リサーチを繰り返して、各企業の持続性や社会性について自分なりに考える力がついたと感じています」(谷口さん)
「就職活動の面接などでS認証制度について話すと、みなさんすごく興味を持ってくださるんですね。この活動を通して、飲食、金融、農業など、様々な業種を見て、すべての業種に興味が湧いたんです。ですので、今はひとつのサービス、ひとつの商品を扱う働き方ではなく、いろんな企業に支援・サポートできる業界に進みたいと考えています」(神戸さん)