服から服をつくり、ペットボトルからペットボトルをつくる。何度でも繰り返し資源が循環するリサイクル技術が開発されています。ゴミを分子レベルまで分解し、再構成して再び原材料を作り出すことが可能な「ケミカルリサイクル技術」は、持続可能な社会の実現に貢献する画期的な技術と言われています。独自のケミカルリサイクル技術で世界から注目を集める株式会社JEPLAN 取締役 執行役員会長の岩元美智彦氏と、入澤学長との対談が実現。話は、正しいリサイクルから楽しいリサイクルへと展開しました。
物理的リサイクルから
「ケミカルリサイクル」へ
岩元/当社が独自に開発した「ケミカルリサイクル技術」の特徴は、石油や石炭といった地下資源が不要になることです。現在の一般的なリサイクル技術は、例えばペットボトルなら粉砕・洗浄後に熱で溶かしてペットボトルに作り替える物理的リサイクルです。ただ、この物理的なリサイクルでは同じペットボトルに作り替えるには利用ロスが多い、色や添加物等の不純物を完全には除去できない、結果として不純物が蓄積するため再生回数に限度があるといった課題があります。一方、私たちの化学的なケミカルリサイクル技術は、ペットボトルなどのリサイクルするものを分子レベルまで分解して添加物などの不純物を除去することができるので、石油から作る原材料と遜色ない品質にまで戻ります。そのため理論的には何百回でも何千回でもリサイクルが可能になります。
入澤/貴社の「ケミカルリサイクル」の技術によって、不要となったペットボトル等のゴミが新たな地上資源となり、石油をはじめとする地下資源を使わずにすむ可能性があるという点が素晴らしいです。というのも、ロシアによるウクライナ侵攻もそうですが、戦争や紛争の一因は、限りある地下資源の奪い合いです。地上資源ですべて賄うことができるようになれば、争う理由がこの世からなくなる。このリサイクル技術は、これからの人類と地球を救うコペルニクス的転回であり、仏教SDGsを推進する龍谷大学の理念と合致するものだと感じています。
岩元/2007年の起業当初は、経済、環境、平和のすべてを成立させ、リンクさせていくことなんて、できないと周囲からかなり言われました。でもそれは事例がなかっただけのこと。できることから一つずつ、事例を重ね、証明していくことができれば、循環型社会への道は進んでいくと思っていました。まずはペットボトルの完全循環を実現させ、ほかの素材に波及していくことをめざしました。
入澤/日本は科学が発達する近代まで、着られなくなった着物を仕立て直すといった循環型の暮らしが日常化していました。岩元会長が推し進めるこの技術は、日本文化の資質や知恵に合致していますし、循環型の取り組みを加速・深化させると思います。
回収拠点を増やしてゆく
地道な活動を続けて10数年
岩元/私たちが技術とともに注力してきたことのひとつに、不要になったものを回収するプラットフォームづくりがあります。リサイクルでは原料を集めるための回収が必要になってきます。そこで、私たちは消費者の意識調査を実施し、不要になったものをどこに持って行くのが便利か質問したところ、最も多かったのが購入した店舗との回答でした。回収する場所さえあれば、消費者もリサイクルに参加したいという気持ちがあることもわかり、10数年かけて、回収ボックスを置いてもらう活動を継続。さまざまな店舗に依頼し、回収ボックスの設置を地道に進めてきました。現在、服の回収拠点は、全国に約4500拠点(2023年2月15日時点)にまで広がっています。
入澤/各家庭で溜まっている古着や、両親の遺品をどうするかという問題はどこにでもあります。これまで捨てるしかなかった服を新たな服に変換していく技術は、諸問題を一気に解決する魔法のようです。
岩元/またリサイクルの話をすると、諸費用はだれが払うの?という議論がよく浮上しますが、リサイクルした製品が売れれば、充分に循環できると考えていて。商品価格の中にリサイクル費用を含めればいいだけのこと。商品が売れればサプライチェーンも潤い、商品のグレードもあがっていく。そういう循環までも設計しています。例えば、10年のおつきあいがある、世界的な人気ブランドで昨年、当社の樹脂を使った商品が販売されたのですが、かなりの人気ぶりで入手も順番待ちでした。ゴミは見方によってはゴミじゃなくなる。角度を変えて技術を入れると資源になり、価値が生まれるんです。
環境意識が高い世代と一緒に
社会課題の解決に楽しい選択肢を
入澤/龍谷大学のOBが運営をしている、「革靴を履いた猫」という靴磨きの店がありまして。障がいのある学生の働く場所を創出するためにできた事業なのですが、靴磨きだけではなく、靴の修理も評判を呼んでいます。愛着のある靴を徹底的に修理して蘇らせる、という新しい発想を持つ学生と岩元会長の事業との考え方に重なるものがある気がしました。明らかに、若い世代の意識は変わり、循環型社会への関心がどんどん高まっていると思います。
岩元/今の若い人たちと話をすると、環境に対する意識が高く、役に立ちたいとの思いがひしひしと伝わってきます。なので、龍谷大学の学生の皆さんともぜひ連携していきたいです。若い人の発想は、課題解決のスピードをアップさせるので、いろんなアイデアを出していただきたいと思います。
入澤/岩元会長の斬新なアイデアが話題となった事例のひとつに、有名なハリウッド映画に登場した車型タイムマシン「デロリアン」のイベントがありましたよね。ゴミ(古着)から再生した燃料で走行させ、 一緒に写真撮影できるというのも楽しい試みでした。
岩元/「リサイクルに協力してください」と単に訴えても、人々の意識や行動の変容を図るのはなかなか困難です。そこで、リサイクルを自分事や習慣にする「正しい」よりも「楽しい」体験をすることが効果的なのではと考え「古着を持ってくるとデロリアンと写真が撮れます」と呼びかけました。するとたくさんの方が集まり、撮影のために1時間以上も並んでくださったのです。しかもSNSでの拡散によってリサイクルは楽しいとの気づきが伝播し、多くの服を回収できたとともに喜びを感じました。参加すると楽しい、と思える仕組みを考えることも私たちの役割です。
入澤:「正しい」を「楽しい」に変える。「ドキドキ」や「ワクワク」を促す。こういった柔軟な発想は、リサイクルはもちろん社会課題解決において重要ですね。 龍谷大学のキャンパスにゴミ燃料を使ったデロリアンをぜひ走らせましょう!
■プロフィール
岩元 美智彦
1964年鹿児島県生まれ。北九州市立大学卒業後、繊維商社に就職。営業マンとして勤務していた1995年、容器包装 リサイクル法の制定を機に繊維リサイクルに深く携わる。 2007年1月、現在の代表取締役社長である髙尾正樹氏とともに日本環境設計(現JEPLAN)を設立。資源が循環する社会づくりをめざし、リサイクルの技術開発だけでなく、 メーカーや小売店など多業種の企業とともにリサイクルの統一化に取り組む。2015年日本人としては5人目となるアショカ・フェローに選出。著書『「捨てない未来」はこのビジネスから生まれる』(ダイヤモンド社)。