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SDGs EYEs:年齢のダイバーシティを考える

ダイバーシティという言葉を聞くと、真っ先に思い浮かぶのは女性活躍などのジェンダー問題でしょう。しかし、最近、一部の先進企業の中には、ジェンダーだけでなく、年齢のダイバーシティを推進する動きが出始めています。

有名なのがミドリムシ(藻の一種)の食品や化粧品などを製造するユーグレナです。同社のHPを見ると、役員紹介のページに「最高未来責任者(CFO)」として大阪府のインターナショナルスクールに通う10代女子、川﨑レナさんを紹介しています。ユーグレナは事業を通じた環境や健康に関する課題解決に積極的な会社で、「地球のこれからについて子どもたちと語り合う中で、現在の経営陣だけでは『不十分』と気付かされました。未来のことを決めるときに、未来を生きる当事者たちがその議論に参加していないのはおかしい」とし、若者を経営会議に参加させています。

CFOは同社のサステナビリティに関する目標の策定に携わる会議「ユーグレナFutureサミット」の運営や関連会議に参加し、CFOとしての意見を述べたり、他の若者と議論したりします※。経営に多様な視点を取り入れる事例として、とてもユニークと言えます。
※CFO(最高未来責任者)https://www.euglena.jp/cfo/

若者のチャンス創出が企業成長の鍵に

他に筆者が個人的に注目している企業には、トイレや窓サッシなどを製造するLIXILがあります。同社の瀬戸欣哉社長は「国際競争に打ち勝つため、女性もさることながら、『若者』や体の不自由な人なども含め、真の意味でダイバーシティな会社にしたい」と発言し、2021年1月に事業会社LIXILに在籍する40歳以上で勤続10年以上の正社員を対象に、希望退職を実行しました。

元々、同社は、10年前にINAXやトステムなど5社の建材・住宅設備メーカーが合併した会社のため、過剰な人員を抱えている問題はありました。ですが、大義名分として「若者にもチャンスを与えたいのでリストラします」と言っている社長を初めて見ました。同社は窓やトイレ以外にも、キッチンやユニットバスなど幅広い住宅関連製品を扱っており、若者を含む多様な視点で製品開発を行っていかなければ消費者ニーズを捉えられないとの危機感が発言の背景にあります。瀬戸社長は住友商事出身で、法人向け工具通販会社「モノタロウ」を創業し、その後に同社を東証1部に上場させたプロ経営者で有名です。希望退職を募る際の会見では、ダイバーシティを本気で推進したいとの熱意と意気込みを感じました。ちなみにLIXILの業績は決して悪いわけではなく、2021年4―9月期の最終利益が上期として過去最高になるなど好調です。同社は女性活躍でも2030年までに取締役と執行役の50%を女性にする意欲的な目標を掲げており、今後、どのような会社に生まれ変わるのか楽しみです。

最近、筆者は取材活動をしていて、経営に若者もいた方がいいのではと感じる出来事に遭遇しました。とある上場企業の決算説明会で、ある記者が細かい売上高の数字を問い合わせた際、登壇していた60代の男性役員3人が、全員同じ行動を取った時のことです。3人は一様に老眼の目を細め、資料をなめ回すように調べ、しかしながら資料の文字が小さすぎて読めず、結局、「後ほど回答します」と答えました。

この瞬間、筆者はふと思いました。経営に若者の視点を持ち込まないと、もしかしたら若者ならすぐに気付く製品デザインや広告ポスターなどの売上高に関わるアイテムの微妙な差を、見落としてしまう可能性があるのではないか、と。もちろん、現場レベルで気付けばいいという話ではありますが、現場には降りてこない経営陣だけが話し合うシークレットな会議の場で、全員が今の日本でよく見られる60代男性の役員ばかりですと、同じ視点で物事を眺め、もしかしたら若者や女性なら気付く重要な視点を、見落としてしまう可能性があるのではないでしょうか。

多様な視点でヌケモレのない「誰一人取り残さない」社会へ

ダイバーシティの分野で近年、注目されている書籍に「多様性の科学」(マシュー・サイド著)があります。同著では、エリート集団である米国のCIA(中央情報局)が2001年9月11日に発生した同時多発テロを防げなかった要因に「職員の多様性の欠如」を挙げています。CIA職員は当時、白人・プロテスタント・男性が大半で、女性やマイノリティ、ムスリムは極めて少なく、一つの世界観で物事を見る人間ばかりで組織されていました。そのために、ムスリムなら容易に気付けたビンラディンの脅威を見抜けなかった、と同著は指摘しています。画一的な人員構成の組織だと、どのようなリスクがあるのかを端的に表している事例と言えます。

国連の持続可能な開発目標(SDGs)では「誰一人取り残さない」社会の構築を目指しています。より幅広く、多様な視点で物事を眺め議論する方が包摂的で見落としの少ない、そして誰にとっても居心地の良い社会を構築できるように感じます。

文/松本麻木乃:専門紙記者
2004年、日刊工業新聞社入社。化学、食品業界、国際を担当、2020年から不動産・住宅・建材業界担当の傍らSDGsを取材。近著に「SDGsアクション<ターゲット実践>」(共著)。