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大学発メガソーラー発電所で地域経済を発展

龍谷大学政策学部では、「社会の課題を幅広い視点から解決する人材を養成する」ことを教育理念としています。2013年、産官学の連携により地域貢献型メガソーラーを設置し、発電した再生可能エネルギーを地域に還元することで、持続可能な地域発展の実現に繋げていく活動がスタートしました。

地域が地域としてあり続けるための取組

日本では、少子高齢化が進んでいます。2025年には、約2.6人に1人が65歳以上、約3.9人に1人が75歳以上に達すると見込まれています。

特に、地方都市の高齢化の進行による影響は深刻です。身体的負担より店舗への客足が減少し、また収入の低下により家計の消費金額が減少し、地域経済に大きな影響をあたえることも想定されます。加えて、認知症や社会的孤立の問題も無視できず、地域社会の維持に支障が生じる恐れもあります。

地域が地域として存在し続けることを目的とし、龍谷大学白石克孝教授、深尾昌峰教授らは「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」を利用し地域への利益につなげる新しい社会構造を研究していました。これは、地域に再生可能エネルギー施設を設置し、生成した電力を売電し、その利潤を地域に還元する仕組みやそれらを地域で創り出せる人材の養成手法などです。

研究成果の地域実装に向け、研究チームは地域金融機関・政府・龍谷大学が産官学連携した「地域貢献型メガソーラー発電事業」を推し進めました。

2014年8月撮影

現在ほど、再生可能エネルギーの認知も低く、資金調達に苦労しましたが、龍谷大学が社会的責任に重きを置いて投資を決断したことで、全国初の地域貢献型メガソーラー「龍谷ソーラーパーク」が誕生しました。「龍谷ソーラーパーク」の収益の一部を地域の応援助成金として充て、市民活動や地域を持続的に発展させる取組に迫ります。

地域に貢献しない発電事業

2011年3月11日、東日本大震災が日本を襲いました。

原子力発電に依存したエネルギー政策を行ってきた日本は、電力不足に陥りました。

政府はこの事態を打開するため「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」を発表し、再生可能エネルギーの施策へと舵をきりました。FITで定められていたのは、再生可能エネルギー推進のインセンティブとして、電力事業者に付加金を支払うことでした。

このFITにより、電力事業者は多くの発電事業をスタートさせました。これによって、地域に設置した発電所を通して電力事業者は思惑通り多くの利益を得ましたが、この利益は発電所がある地域に還元されることはありませんでした。

龍谷大学深尾教授は、従来より地域が地域として存続するための方法論を研究しており、地域が搾取されるばかりの構造に疑問を抱きました。目の前の一時的な利益だけを見るのではなく、将来を見据えた日本の幸せのために社会構造は構築されるべき、発電所がある地域に利益を還元するような、新しい事業構造が必要だと強く思いました。

地域貢献型メガソーラー発電事業構想の構築

そんな中、龍谷大学の地域公共人材・政策開発リサーチセンターにて、再生可能エネルギーを地域貢献に用いる発電事業モデルの研究開発が行われていました。

深尾教授らはこの中で、地域に利益を還元するような発電事業の構想を作り出しました。非営利株式会社というユニークな形態を提唱し、発電事業活動で得た収益を地域組織や市民団体に還元する仕組みです。具体的には、まず、地域の学校法人や中小企業などの出資者が、環境などの社会的責任に重きをおいて投資先を決めます。次に、投資資金を使って非営利株式会社がソーラー発電所の設置と運営を行い、ここで発電した電力を電力会社に売ります。そして、発生した利益を助成金として地域社会に還元する仕組みとなっています。

地域に貢献する発電事業構想

地域貢献型龍谷ソーラーパークの実現

構想を実現させるため、プロジェクトが動きだしました。まず、龍谷大学深尾教授と白石教授は非営利型株式会社 PLUS SOCIAL を設立しました。

構想を実現させるための一番の問題は資金調達でした。メガソーラー発電所の建設には多額の資金が必要となります。

研究開発した事業構想を実現させるために大学が主体となる取組が全国で少ないため、資金調達には驚きと懸念の声を多くいただきました。また、地域貢献のための電力事業構想について前例がなかったこと、大学が再生可能エネルギー発電所に関わるような取り組みが初であることから、成功するか分からない事業に投資できないという声も多くいただきました。

これを受けて、出資者にとって安全な運用ができる信託スキームを構築しました。これにより、龍谷大学という学校法人による社会的責任投資及び地域金融機関からの融資を可能にさせました。

龍谷ソーラーパークの発電事業

こうして「地域貢献型メガソーラー発電事業」の実現に向けた役者が揃いました。出資者として龍谷大学、地域として印南町、金融機関と連携した信託事業体とトランスバリュー信託株式会社です。龍谷大学が投資する資金をもとに、事業会社である信託事業体とトランスバリュー信託株式会社が連携してメガソーラー発電所(発電能力合計約1,850kW)を龍谷大学深草キャンパス及び印南町に設置しました。こうして、発電所に京セラ製の合計約7,500枚のパネルが設置され、龍谷ソーラーパークが誕生しました。

これを機に、龍谷大学は和歌山県印南町と地域連携協定を締結しました。まず、印南町のまちづくりに協力することを約束しました。深尾教授らが作った非営利株式会社 PLUS SOCIAL は、印南町での龍谷ソーラーパーク事業により発生した利益を、地域貢献活動や市民活動の支援資金として提供しています。

また、龍谷大学は地域人材の育成協力に協力することを約束しました。印南町最大のお祭り「印南かえるのフェスティバル」に参加し、地元の子ども達と本学出展ブースを通じてふれあうなど資金面以外においても地域を活性化させる取組を実施し続けています。

2015年撮影:印南かえるのフェスティバルでの地域住民とのふれあい

このように、資金面のみで貢献する取組だけでなく、龍谷ソーラーパークによって繋がった地域の人々との交流により、実際に地域を持続的に推進させる取組が進んでいます。

龍谷ソーラーパーク鈴鹿の実現

2例目として、三重県鈴鹿市と連携した「龍谷ソーラーパーク鈴鹿」事業への取組が開始しました。1例目の印南町の構想を参考にし、出資者として龍谷大学、地域として鈴鹿市、金融機関と連携した信託事業体と楽天信託株式会社に声をかけました。龍谷大学が社会的責任に重きをおいて本事業への投資を決め、この資金をもとに、事業会社である信託事業体と楽天信託株式会社が連携して、発電所に京セラ製の合計約14,745枚のパネルが設置されました。太陽光によって得られる再生可能エネルギーを中部電力に売電し、収益は鈴鹿市に寄付して地域に還元される仕組みとなっています。

龍谷ソーラーパーク鈴鹿の実現

龍谷ソーラーパーク鈴鹿(発電能力合計約3833kW)の誕生を機に、鈴鹿市と非営利株式会社 PLUS SOCIAL社は連携して、市民活動支援事業や地域活性化事業等に取り組むようになりました。鈴鹿市は市民団体などの支援を目的に補助金制度を設け、非営利株式会社 PLUS SOCIAL社からの寄付を活用して市民活動や地域づくり活動の支援に取り組んでいます。

鈴鹿市が設けた補助金制度には初年度から23団体から応募がありました。このうち書類審査を通過した5団体と、特別枠として住民主体の町づくり4団体を合わせた9団体が、鈴鹿地域の課題解決と活性化にむけた事業計画を発表しました。これを受けて龍谷大学の深尾教授を筆頭に有識者6名の投票と来場者の投票を行い、各団体への助成金(7万〜35万)を決め、支援しました。

龍谷フロートソーラーパーク洲本の実現

3例目として、兵庫県洲本市の農業用ため池に水面に浮かぶ形式のソーラーパネルが設置され、龍谷フロートソーラーパーク洲本が誕生しました。

淡路島洲本市には約7,000という数の農業用ため池が存在し、その維持管理が地域にとって大きな課題となっています。行政からもなんとか課題を解決できないかと龍谷大学は相談を受けていました。そこで、白石教授らは、ため池ソーラー発電を構想しました。洲本市はため池を貸し出し、白石教授が代表をつとめるPS洲本(株)はフロート型太陽光発電設備を企画・設置・運営し、龍谷大学は事業資金を投資し、地元金融機関とともに本事業に対する資金を提供しました。

ため池の有効活用と地域課題解決のために再生可能エネルギー施設を設置する取組として、2017年10月には「龍谷フロートソーラーパーク洲本(1.7MW)」 が竣工し、その売電収益はため池の維持管理や地域振興に活用されています。また、白石教授が代表をつとめる「洲本未来づくり基金」も動き出し、収益が本格的に地域づくりに活用されていきます。

2014年8月撮影

2014年8月撮影

産官学金連携による地域活性化を目的とした取り組みをより一層進めることで、将来まで持続する地域を作っていきたいという強い想いを龍谷大学は持っています。龍谷大学によって初めて実現した、地域貢献のための再生可能エネルギー事業。これがどのように機能し、地域の持続的な存続に繋がるのか、目が離せません。