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みんなの仏教SDGsウェブマガジン ReTACTION|みんなの仏教SDGsウェブマガジン

SDGs EYEs:
ファッションロス削減の動き本格化

「ファッションロス」という言葉がにわかに注目されています。まだ食べられるのに廃棄されるフードロス(食品廃棄)の服飾版と言える言葉で、「衣料品廃棄」を指しています。環境省によると、日本の家庭で廃棄される服の量は年間約48万トン。これは平均1日あたり大型トラック約130台分の服が焼却・埋め立て処分されていることになるそうです※1。持続可能な社会の構築に向け、大量生産・大量消費型の社会構造を改め、本当に必要な良い服を吟味して買う時代になりつつあります。
※1 環境省「SUSTAINABLE FASHION これからのファッションを持続可能に」

デザインの力でファッションを “ニューメイク”

2021年7月下旬、表参道のおしゃれな店が建ち並ぶ通りの一角に持続可能なファッションの普及を目指す拠点「ニューメイクラボ(以下ラボ)」が誕生しました。廃棄予定の衣料品を回収しリメイクする拠点で、仕掛けたのは大手不動産会社の東急不動産と体験シェアリングサービスを提供するストーリーアンドカンパニー(東京都千代田区)です。大量に廃棄される衣服の問題をどうにかしたいと思いつつも、何から始めていいのかわからない…。そうしたファッションロスに関心の高い層向けに会員制の交流拠点を提供しています。

具体的にはミッソーニやキャンプ用品のコールマン、ニューバランス、デサントなど大手ブランドの廃棄予定の衣料品を譲り受け、ラボで再縫製して商品として売れるレベルに仕上げます。ミシンや素材は無料で提供し、会費も無料。主催者はSDGs(持続可能な開発目標)の一環で場を提供しています。

ニューメイクラボ

ラボに集まる会員の多くがデザイナーのため、思い思いの着想を得てデザインするそうです。主催者は定期的に大手ブランドの関係者を招いたセミナーを開き、ブランドの歴史や価値観などを伝える機会も設けます。ブランドを大切にしていることを踏まえた上で、リメイクした服は、どこかブランドの面影は残しつつも、デザイナーの個性でまったく新しい服として仕上がります。9月のラボのツイッターによると、コールマンのキャンプ用のテント生地を使い、末広がりのドレスを作ったそうです。できあがった作品は、販売やレンタルなどさまざまな活用方法を予定しているとのこと。表参道というファッション感度の高い人が集まる場所で始まった取り組みは、同じファッションに興味のある人々へ、大きな波及効果が期待できそうです。

拡がるサステナブルファッション産業

繊維やアパレルメーカーなどが自主的に持続可能なファッションを推進する活動組織も立ち上がりました。東レや伊藤忠商事、ユナイテッドアローズなど11社は2021年8月、「ジャパンサステナブルファッションアライアンス」を立ち上げました。事務局のHPによると、「適量生産・適量購入・循環利用によるファッションロスゼロ」と「2050年カーボンニュートラル」を目標に、サステナブルなファッション産業への移行を推進する、と宣言しています※2。同年9月にはファスナーのYKKが加盟を表明し、活動の輪がどんどん広がる可能性を示しています。※2「ジャパンサステナブルファッションアライアンス」

日本の小売店で売られている衣料品の約98%が輸入品です。綿栽培や染色工程での大量の水の消費をはじめ、途上国における縫製工程での人権問題、輸送工程での二酸化炭素(CO2)の排出などさまざまな課題が指摘されるようになっています。最近は企業が自ら自社の取り組み過程で問題が起きていないか精査(デューデリジェンス)する動きが本格化しており、同アライアンスでもさまざまな企業が連携して環境にも人にも優しいファッション産業のルールづくりを推進していくことが予想されます。

みんながつかう責任を考える時代へ

アライアンスの目標に「『適量購入』によるファッションロスゼロ」とあるように、最近、企業から聞こえてくるのは「消費者にも行動してほしい」という声です。そこで、消費者庁は2021年8月に「サステナブルファッションに関する特設ページ」を開設しました※3。

「サステナブルファッション習慣のすすめ」や「18のヒント」、「取り組みや工夫の紹介」などの情報が掲載されています。例えば、18のヒントを見ると、①必要かどうかもう一度よく考える②長く着ることができるものを買う③処分するときのことも考えてみるなどとあります。③の処分については、リサイクルやリユースを念頭に置き、「トレンドに左右されないデザイン、ジェンダーレスなデザインなどは引き取り手が見つかりやすいかもしれません」とアドバイスしています。


※3 消費者庁「サステナブルファッション習慣のすすめ」

 

③の一文を読んで、筆者はとても考え込んでしまいました。これからの時代は、単に「気に入ったから買う」という衝動買いはカッコいいとは見なされず、着る時だけでなく、着なくなる時のことまで考えた慎重な消費行動が求められているようです。

食品業界では「ファストフード」と対比し、地元で取れる食材をゆっくり味わって食べる「スローフード」のムーブメントがあります。ファッション業界でも「ファストファッション」ではなく、吟味して購入し長く着続ける「スローファッション」がはやりそうです。

 

文/松本麻木乃:専門紙記者

2004年、日刊工業新聞社入社。化学、食品業界、国際を担当、2020年から不動産・住宅・建材業界担当の傍らSDGsを取材。近著に「SDGsアクション<ターゲット実践>」(共著)。