7月、早めの夏休みでフィンランドへ行ってきた。今回は留学時代にフラットメイトだった友人ハンナのコテージ(別荘)で4日間を過ごした。フィンランドでは10人に1人がコテージを所有しているという。日本ではお金持ちが持つイメージがあるコテージも、フィンランドでは非常に一般的だ。コテージはフィンランド語でモッキ(mökki)と呼ばれ、そこで過ごす「モッキライフ」はフィンランドの文化に深く根ざし、持続可能な生活を意識するきっかけになっている。
サウナからはじまる
フィンランドでは大人は約4週間、子どもは2か月半の夏休みがある。その間、モッキでのんびり過ごすという人も多い。友人ハンナも子どもの頃、夏休みはいつも車で30分ほどの海辺にあるモッキで、家族と寝泊まりして過ごしたそうだ。今でも兄弟の家族と共有で利用していて、週末や夏休みに数日行っては、モッキライフを楽しむ。
通常、モッキは湖畔や海辺などの水辺にあり、森も近く隣の家はほとんど見えないプライベート空間だ。祖父母や親から譲り受ける人もいるが、自分のモッキを持ちたいと願っている人は多く、それ専用の土地の不動産市場も活発だ。コロナ禍には、密を避けるためモッキでテレワークをする話もよく聞いた。
DIYが当たり前のフィンランドでは、モッキも自分で建てる人が珍しくない。その際、まず作るのはサウナ。薪で温める方式で、サウナストーブには水のタンクがあり、サウナストーンを熱すると同時にお湯を沸かすことができる。そのお湯と、汲んできた水を混ぜれば、たとえ水道がなくともちょうどいい温度で体を洗うことができる。サウナ部屋の手前の空間は更衣室としてはもちろん、寝室としても使える。そんな素朴なサウナ小屋から徐々に寝室やキッチンなどを作り、居住空間を充実させていく。友人ハンナのモッキも、父親が長い年月をかけて少しづつ建てたコテージで、電気も水もあり、屋内に豪華なキッチン、水洗トイレ、暖房が備わり、寝室も複数あってテラスまである。もはや一般住宅と比べてもなんの遜色もない。一方、ハンナの母親は長年畑づくりやガーデニングに精を出してきた。テラスポーチには花が飾られ、近くの畑では様々な野菜やいちごが毎年栽培されている。
自然との一体感を味わう
こういった何でもある快適なモッキは夏以外にも利用が可能で、用途を広げている。一方で、昔ながらの電気も水もない素朴なものも一部には人気だ。夏は白夜で遅くまで明るいので部屋に照明がなくてもあまり困らない。料理は炭を使ったバーベキューや薪の料理用ストーブを使用。水は湖や井戸から汲んできて使う。トイレは外にあり、使用後は水で流すのではなく落ち葉や砂をかける。こういった不便さを楽しんでこそモッキライフだという人が一定数いるのだ。

(左)森ですごす (右)屋外トイレ
いずれにしても、現代生活の複雑さから解放され、自然と一体化するシンプルさがモッキライフの魅力だ。昼はほとんどの時間を外で過ごし、常に雄大な自然の中の自分を感じて過ごす。決して、田舎で都会の生活を再現することを目指しているわけではない。また、限られた資源を、環境を害しない形で使うことを求められるので、自然と節約、低消費や循環を意識するようになる。
例えば、水のないモッキでは洗い物をするのにも汲んできた限られた量の水ですばやくおこなう必要がある。また、できるだけ環境にいいシャンプーやせっけんを使ったり、いかにゴミを出さずにいられるか工夫をしたり、畑や森でとれるものを使って、自給自足、食材を使い切ることを心掛けたりもする。シャワーがなければ、先述の方法で体を洗う必要があるが、多少濁っていたり葉が入っていたりしても気にしないおおらかさが、求められる。

何もしない時間も楽しむ
では、モッキでは他にどんなことをするのか。今回、かつての学友たちがかけつけてくれ、共に時を過ごした。おしゃべりはもちろん、海で泳いだり、SUPボードに挑戦したり、サウナに一緒に入ったりもした。毎日散歩がてら森に行き、野生のブルーベリー(厳密にはビルベリー)やきのこをとった。フィンランドには「自然享受権」がある。これは環境を害したり地権者を妨害したりしない限り、すべての人が自由に土地にアクセスすることを許可しているもので、森が誰の所有であっても誰もが自由に歩き回って、野生のベリーやきのこをとってもいい。採取したきのこやベリーは料理やスイーツに姿を変え、食卓に並んだ。多くの食材はスーパーで買い出しし、ほぼ毎日、バーベキューを楽しみ、テラスで風を感じながら食事をした。モッキのメンテナンスや庭や芝生、桟橋周りをきれいにする仕事も手伝った。
やることがいろいろあったが、読書や何もしない時間もまた心地よかった。朝、目が覚めると外に出て、静かな海の水面をみつめながらコーヒーを飲み、夜は桟橋に座り、足を水につけながら刻々と表情を変える水面を見つめた。そんな時間は私にとって至福の時だった。

(左)ラズベリー (右)アンズダケ
ちなみに今年のフィンランドの夏は、最高気温30度を超える日が続出し、気候変動の影を感じる歴史的に見ても暑い夏であった。フィンランドの家やモッキはあまり窓が開かないようになっていて、暑い日には部屋の温度は上がったきり、なかなか下がらない。以前、エアコンのある家はフィンランドではほとんどなかったが、最近は導入する家庭も南部を中心に増えている。幸い、私が滞在したモッキは、昼は日陰にいれば海風があり涼しく、夜はエアコンがあったため、快適に寝ることができた。
皆さんがフィンランドに行く機会があったら、ぜひ普通の観光だけでなく、モッキも体験してほしい。まさにそれこそがフィンランドで、サステナビリティとミニマリズムを追求した生活がそこにはある。
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文/堀内 都喜子
長野県出身。フィンランドのユヴァスキュラ大学大学院でコミュニケーション専攻、修士号取得。現在フィンランド大使館広報部に勤務。著書『フィンランド 幸せのメソッド』(集英社新書)。『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ新書)など。翻訳『チャーム・オブ・アイス~フィギュアスケートの魅力』(サンマーク出版)