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伝統技法×現代技術の融合で和本の修復・復刻を手掛ける、京都市右京区「岐山堂」

文化財や古美術品、和本の修復・レプリカ作成・復刻をおこなう「岐山堂(ぎざんどう)」(京都市右京区梅津)。代表の片岡 康則さんは、広い古民家の一角を仕事場にし、1人で修復・復刻の作業をおこなわれています。

「岐山堂」は、2022年8月、文化財の保護や伝統技術の継承に寄与していることが評価され、ソーシャル企業認証制度「S認証」に認定されました。今回は、和本の原本や修復・復刻作品を見せていただきながら、修復師の仕事内容、やりがい、後世に伝えたいことを伺いました。

 
ソーシャル企業認証制度「S認証」

一般社団法人 ソーシャル企業認定機構が、「経営方針」「世のため人のために取り組むこと」「地域社会や地域の人々に与える影響」などを基準に評価・認証を行う制度。京都信用金庫・京都北都信用金庫・湖東信用金庫・但馬信用金庫が参画し、龍谷大学ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンターのもとに設置された委員会が、各企業・団体の社会性および社会的インパクトについて、公平公正に審査をおこなう第3者機関の運営をおこなっている。委員会には、大学の各分野の専門家、経営、会計、行政の有識者、龍谷大学の学生が参画している。

 

編集部:和本の修復・復刻修復のお仕事を始められた経緯を教えてください。

大学時代は国史学を専攻。卒業論文を和綴じ本に仕立てた経験により、和本の伝統技法に興味をもちました。卒業後は京都の会社で骨董品や文化財、古書の復刻や修理、レプリカ製作を23年間おこないました。専務として経営にも関わっていたのですが「自分の手を動かし、良い仕事をしたい」と思い、2017年に「岐山堂(ぎざんどう)」として独立しました。

編集部:お仕事内容を教えてください。

主に扱うのは、掛け軸、巻物、和本です。日本全国の寺院や美術館・またそれを仲介している企業様から依頼があり、原本の修復のほか、展示用のレプリカ製作、復刻を手掛けています。そのなかでも和本の復刻の依頼が多いです。経年劣化した和本をお預かりし、100年以上もつといわれている大豆由来のインキを使って印刷し、数十部を製本します。復刻和本は、若い僧侶のための勉強会で使われることが多いようです。

 

一点物のレプリカ製作の場合は、原本を精査して、同じような和紙を探すところから始まります。和紙には楮、三椏、雁皮といった植物繊維が原料のもの、竹の皮を漉いた中国由来竹紙(ちくし)などがあります。なるべく手漉き和紙を使いたいところなのですが、近年、和紙職人さんが減っていることもあり、手漉き和紙の値段が高騰しています。そのため、ご依頼主さまの意向をお聞きしつつ、福井県越前の和紙メーカーさんに相談し、同じような品質で安価な機械漉き和紙を使うことも増えています。

 

プリントは、レプリカ製作の専門部署がある印刷会社さんにお願いしています。ご依頼主さまから「本が作られた時のように、きれいな状態に」というリクエストがあれば美しく、逆に「経年劣化による破れや汚れをそのまま出したい」という場合は、古美術復刻に強いデザイナーさんにお願いして仕上げてもらっています。令和のいまは、伝統製法に新しい技術を加えるなどで、修復技法が進化しているのです。

編集部:修復師として大切にしていることは何ですか。

ご依頼主さまが代々受け継がれてきた「想い」を大切にしています。経本や掛け軸、巻物には教義や仏絵が書かれており、ご依頼主さまにとっては “宝物”です。寺院でお坊さんにお会いすると、ページをめくりながら熱く語っていただくこともしばしばです。私の仕事は「想い」をお預かりし修復し、「想い」を次の世代に「渡す」ことだと思っています。

編集部:お仕事を続けるうえで、心掛けていることはありますか。

私はふだんから、「本物を見る目」を養うために美術館に足を運ぶようにしています。前職の時、九州のある記念館を訪れたとき、私が手がけたレプリカ本が展示されているのを発見しました。その作品は、私が直接請け負ったものではなく関連業者さんからの依頼だったため、最終的にどこで、どのように展示されているかがわからなかったのです。記念館で作品に再会した時は「こうやって、たくさんの方の目に触れられているんだ」と、感動しましたね。

和紙などの材料や印刷技術については、日々勉強しています。地方にいくといろんな和紙に出会えるので、その地方ならではの和紙文化を学ぶようにしています。また最近では、業界内ではヨコのつながりがあり、わからないことがあれば先輩や職人さんに聞きに行くこともあります。昔の職人さんは「やり方は教えられない。目で見て習得すべし」「自分で考えてやるように」と言われることが多く、見よう見まねで覚えてきましたが、最近は惜しまずに知識を教えてくれる人ばかりです。私も、誰かにやり方を聞かれたらどんどんお話ししていますよ。

編集部:修復師としてのやりがいは何ですか。

日々の作業は地味ですし、生産効率に優れているともいえません。しかし、責任を持って作品を仕上げた時にはなんともいえない達成感を得られます。

夢は、令和の修復師として何か作品を残すこと。経典などの和綴じ本を修復する際は綴じ糸をほどきます。和糊で貼られていた場合は、きれいにはがせることができます。すると綴じられていた部分に、修復した年と修復師の名前が書かれていることがあります。修復した作品自体はたくさんの人の目に触れるけれど、修復師の名前はその作品の見えないところに書かれているというわけです。読み手の目に触れることはないのですね。ところが、100年後、200年後にまた修復されることがあれば糸がほどかれます。そして、「前回はこの時代に、岐山堂の片岡 康則という人が手掛けたんだな」と、次の修復師の目に留まります。この隠された仕掛けに、ひそかに喜びを感じています。

編集部:最後にこの記事を読んだ方へのメッセージをお願いします。

美術館や博物館、寺社などで「本物」や「本物のような複製」をたくさん見て、「好きだと思えるもの」を見つけて興味を持ってほしいですね。好きなものに出会えたら、歴史や文化、言語といった「知」を磨くきっかけとなるでしょう。「どうやって作られているのかな」「この技法は、現代にも受け継がれているのかな」と考えるのも楽しいものです。

昨年、京都信用金庫 梅津支店さまからのお誘いで地域の方対象に御朱印帳作り、別件で鎌倉のお寺で糸を使って和綴じ本を作ろうという子ども向けワークショップを企画していたのですが、コロナ禍で中止になってしまいました。今後は、伝統技術を後世に残すためにも、子どもたちや若い方に和本や修復の魅力を広く伝える活動を始めていきたいと考えています。

 

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