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SDGs EYEs:Govtechが変える未来

Govtech(ガブテック)という言葉をご存じでしょうか。「GovernmentとTechnology」を掛け合わせた造語で、2013年頃から国内外で使われ始めたと言われています(一般社団法人日本Govtech 協会 )。デジタル技術を駆使して行政の効率化に取り組むスタートアップを指し、日本でも徐々に存在感を高めようとしています。

Govtech企業の最新事例

先日、Govtechの代表的な1社、xID株式会社(クロスアイディー、東京都千代田区)を取材する機会を得ました。

マイナンバーカードを活用したオンライン個人認証技術を持つ会社です。同社のHPによれば「日本で唯一、マイナンバーカードに特化したデジタルIDで次世代ビジネスモデルをパートナーと共に創出するGovtech企業」としています。同社のアプリをスマホにダウンロードし、マイナンバーカードを読み込ませて本人確認を行うと、個人のIDがつくれます。一度、登録すると、以降は再度、マイナンバーカードを読み込ませる必要がなく、アプリを使って電子認証が行えます。

例えば、行政主催のスポーツイベントなどに参加する際、その行政がxIDの技術を採用していれば、住民はあらためて住所などを記入する手間が省け、スマホから簡単に参加申請が行えます。一方、行政側も住民の本人確認を正確かつ瞬時に行えるようになり、参加者の年齢や性別などの属性を捉えて、次回のイベント開催に生かせます。また住民がスマホで行政からの通知を受け取る設定にしていると、次回のイベント情報をスマホで受け取ることもできます。

筆者はxIDのアプリに興味を持ち、スマホ登録に関するユーチューブ動画を視聴してみました。すると、4~12桁の電子認証用暗証キーと、6~12桁の電子署名用暗証キーの二つの登録がやや難しいと感じました。暗証番号の記憶が苦手な人にとっては、二度も暗証番号を登録するのは手間がかかると感じます。ただ、そんな人のために、暗証キーに代わって顔認証や指紋認証を設定することもでき、登録のハードルを下げる工夫を行っています(xID アプリ)。

xIDはすでに全国の390以上の自治体で採用されており、「マイナンバーカードのアプリで普及率ナンバーワン」(xIDの日下光CEO=最高経営責任者)になっています。

同社の日下CEOは、電子政府で有名なエストニアの政府機関で働いた経験を持つユニークな経歴の持ち主です。

行政サービスのデジタル化進展の課題

エストニアは人口が130万人と奈良県ぐらいの規模ですが、行政のデジタルサービスが世界的にも突出して進んでいることで知られます。インターネット普及率は98%に達し、確定申告をオンラインで行い、子どもの成績をイースクール(教育情報プラットフォーム「ekool」)で確認し、選挙の投票もオンラインで行うそうです※。

※参考:もっと知りたいエストニア

日本もGovtechがけん引してエストニアのように行政のデジタル化が進展すれば、公共サービスの利便性は今より高まることになるでしょう。一方で、ITに疎い筆者には少し不安に感じる面もあります。それは、ITが得意な人とそうでない人との間で格差が生じる「デジタルデバイド(情報格差)」の問題です。マイナポータルにマイナンバーカードを読み込ませることにも苦戦する筆者にとっては、格差が一段と拡大していくことになるのではと危機感を抱きます。この点について、日下CEOに疑問をぶつけたところ、「使いにくいデジタルは使いにくい。使いやすいアナログは使いやすい。要はデジタルが問題ではなく、使いやすいかどうかが大切」と話していました。

この発言を聞き、筆者にはピンとくるものがありました。それは対話アプリ「LINE」のことです。一般的にシニア層は若者に比べてデジタルに疎いとみられていますが、筆者の70代の母親は、LINEをフル活用して写真やスタンプを頻繁に送ってきます。使い勝手がよければ、世代を問わず、誰でもデジタルの手段を利用するようになるという典型例だと思います。日下CEOは、デジタルだから格差が生じるのではなく、デジタルであれアナログであれ、使い勝手がよければみな利用するようになり、格差は生じないと話していました。こうした中で、現状はデジタルの方が効率面でもスピード面でもアナログに勝るため、デジタルを活用しているとのことでした。

ますます拡がるGovtech

今後、Govtechの活躍で行政サービスの利便性が高まれば、行政から住民への一方向の情報発信だけでなく、住民から行政への双方向のコミュニケーションも活発化していくことになるでしょう。この結果、住民の声が行政に簡単に届き、行政サービスの質的向上につながることが期待されます。

こうした未来は、もうすぐそこに来ている気がします。xIDをはじめとしたGovtech約20社が2022年11月に業界団体「Govtech協会」を立ち上げました。メンバー企業には、市民の声を政治に届けるプラットフォームを手がける株式会社PoliPoli(東京都千代田)、行政手続きの効率化システムを提供するジーテック(東京都中野区)、住民参加型のテクノロジー活用「シビックテック」を推進するコード・フォー・ジャパン(東京都文京区)など勢いのある企業が含まれています。

設立の背景にはこう書かれています。「Govtechの推進を通して、多様でオープンな官民の関わり合い、公共・行政分野に新しい文化が生まれることで、誰一人取り残されない、人に優しいデジタル社会の実現に貢献できる…」※。Govtechは、誰一人取り残されないSDGs的な社会を加速度的に構築するポテンシャルを秘めていそうです。

※参考:Govtech 協会リリース

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文/松本麻木乃:専門紙記者
2004年、日刊工業新聞社入社。化学、食品業界、国際を担当、2020年から不動産・住宅・建材業界担当の傍らSDGsを取材。近著に「SDGsアクション<ターゲット実践>」(共著)。

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